22 楽器が溶ける?

「皆さん、楽器が溶けるんですよ!」
また出た。「イグチは何を言っているんだー!」と叱ってください。
でもまあ聞いてください。溶けるといいましても楽器が液体化するようなことはございません。(当たり前か)
どういうことか正確に言いますと、ニスが溶けるのです。これでもまだ「えーっ!」って思う方が多いでしょうね。
でもこれは事実です。

そもそもニスと言うのは硬質な樹脂を油でといた透明、もしくはあめ色をした塗料であります。もちろんこの手の塗料は大変強力なものでありますので、ちょっとやそっとでは剥げたりはしません。
ところがひとつだけ弱いものがあります。それは熱です。熱を与えますとトロトロ溶け出します。
ですから楽器を暑いところに放置したり、車の中に入れっぱなしなんてしようもんなら一発で終わりです。そんな手荒な扱いをしたらどんな楽器でもすぐにダメになってしまいます。

しかし、そうじゃなくて実はとても大事に扱っているのにニスが溶け出すことがあるのです。

ちょつと想像してみてください。熱と言えば、楽器は人が弾くものです。人間には体温がありますよね。
そうです、体温なんです。「じゃあ、どうやっても溶けるじゃないですか!」と言われそうですが、ちょっと待ってください。これにはタネも仕掛けもあるのです。ただ普通に弾いているだけではニスが溶け出すことはありませんのでどうかご安心ください。ある条件下でそうなることがあるのです。(100%なると言うことではありません)
その条件と言うのは楽器を弾くときにひょっとして「滑り止め」なるものを使っておられるとしたら、それが原因になる場合があるんです。で、滑り止めにもいろいろあるのですが、特にビニール製のもの(台所用なんてもの)を使っておられる方がいましたら要注意です。たしかにビニールですとほとんど滑りませんし(皮よりも滑りにくい)買う時も値段がぜんぜん安いんですね。ですからけっこう使っている方が多いんです。
夏なんかに長時間弾いていると、このビニールが体温で溶け始めます。最初はあまり意識しないのですが、楽器にぴたっと引っ付いたままになることがあると思うのですが、それはすでに溶け始めているのです。ビニールが溶けると言うのも熱によるものですので当然ニスにも熱が加わります。すると最終的にはどうなるかと言いますとビニールとニスが交じり合うようなことが起こってしまいます。(何らかの化学的な反応があるのかどうかは分かりません。)しかし、実際に指でこすってニスが剥がれてしまう楽器を何本も見ています。もう一度申し上げますが、100%そうなると言うことではありません。その可能性がより高いと言うことです。
ですから滑り止めはよく考えて選んでください。できれば皮か、熱に強い素材のものがよろしいかと思います。

それからネックのニスがはげて色が変わってしまったと言う方も居られるかもしれませんが、これも熱と汗の影響なんですね。ですから弾いた後は必ずシリコンクロスで楽器を拭き拭きましょうね。
いま地球は温暖化がすすんでいます。ひょっとしたら100年後には何もしなくてもトロトロ溶け出したりしてね。その前に人間がどうかなりますな。シャレになりまへんなあ。
ともあれ、楽器の取り扱いには今まで以上に気をつけましょう。